霧島から日本の
発酵文化を支える
発酵の代表的な微生物のひとつに麹がある。その麹をつくるために不可欠なのが種麹だ。今回、全国の本格焼酎の8割以上の製造に使用されている種麹・河内菌を生んだ、霧島の河内源一郎商店で話を聞いた。
「麹の神様」「焼酎文化の父」
初代・河内源一郎氏とは?
霧島の地に〝麹の神様〟、〝焼酎文化の父〟と呼ばれる人がいた。河内源一郎商店/河内菌本舗(以下、河内源一郎商店)の初代・河内源一郎氏である。初代・河内源一郎氏は、広島県福山市の醬油屋に生まれ、大阪高等工業学校醸造科を卒業後、大蔵省の税務監査局の技師として鹿児島に赴任。焼酎が腐って困るという巡視先の声を聞き、焼酎の麹の研究を始めた。鹿児島の焼酎が寒地向きの日本酒の麹を使用している点を疑問に思うと、同じく気温の高い沖縄の泡盛に糸口を見つける。そして明治43年、紆余曲折を経て、泡盛の麹菌から胞子を取って焼酎に適した、河内黒麹菌(泡盛黒麴菌=アスペルギルス・アワモリ・ヴァル・カワチ)を培養することに成功。大正13年には糖化能力にすぐれた新種・河内菌白麹を自ら分離、発見した。河内菌は本格焼酎製造用麹菌として、現在、日本の本格焼酎の約8割に使用されている。
麹菌や発酵の神髄は
「和を以て貴しとなす」
河内源一郎商店は、九州最大の麹蔵として種麴のほかにも数々の麴食品を手がけている。「調和することが大事という意味の〝和を以て貴しとなす〟という言葉がありますが、麴菌や発酵はまさにそれなんです」と言うのは、河内源一郎商店の山元紀子さん。同店の商品開発においては、麴菌をさまざまな食材に生やして、発酵させることによってその素材がもつ力をより引き出したり、新たに生んだりしている。山元さんは、「麹菌は別の食材に力を貸して、自らエサになって発酵を促します。麴菌自体は、表に出ない黒子みたいな存在。発酵はまさに日本文化そのもののように感じますし、麴菌の活躍は愛しいですよね」と話す。
発酵による好循環
サステナブルな霧島
近年、発酵に注目が集まり続けているが、河内源一郎商店では健康だけでなく、環境にも配慮した取り組みを行っている。「当社は初代が河内黒麴菌を培養し、河内白麹菌を発見して、二代目が麹菌を培養する自動製麹装置の開発に取り組みました。そして、三代目の山元正博が麹菌の機能性に着目。現在、農業や畜産業界とも連携しています」と山元さん。河内菌による発酵で食品の残渣を飼料化し、家畜のエサにしたところ、「家畜の成長が促進されたり、ビタミンEが増加したりして肉質が向上しました。また、この飼料で育った家畜の糞は良質な肥料になって、畑の作物の成長にもプラスに働きました。ある畑では、収穫量が通常の1.5倍になったんです。農業は大変だからこそ、麹菌の力で効率的にできる方法を見つけられたらすばらしいと思っています」。このような好循環は、サステナブルな街づくりにもつながる。それについて山元さんは「霧島が発酵の街になったらうれしい」と言う。「実は、食品残渣は鹿児島空港から出たものなんです。霧島の街で循環しているのは、とてもいいこと。それに霧島は空港のある街だからこそ、誰でも行き来できる場所です。当社の種麴を全国に届けることもできますし、たくさんの方に工場を見学していただくことも可能です」。
麹菌の力を科学的に分析
霧島を発酵の街へ
最後に、河内源一郎商店の未来について山元さんにうかがった。「大事にしているのは、なぜ麴菌、発酵がなぜ身体にいいのかという具体的な理由、エビデンスです」。日本の文化でもある発酵食品を世界に発信するために、多くのデータを取っているとのこと。「現在、みなさんにとって麹菌は身近なものになりました。それが健康になるとはっきりわかれば、もっとお役に立てます。今後、〝治療から未病へ〟となるよう科学的に分析していきたいですね」と山元さん。霧島が全国から発酵の街と呼ばれる日も、そう遠くないだろう。
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取材・文=やましたよしみ
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写真=磯畑弘樹
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取材・文=やましたよしみ
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写真=磯畑弘樹