あなたを想う、味噌づくりの物語 | EAT LOCAL KAGOSHIMA

あなたを想う、
味噌づくりの物語

霧島市・ マルマメン工房
増田泰博

霧島で、自然農法をはじめ味噌などの加工品製造販売を行う、マルマメン工房の増田泰博さん。マルマメン工房の素材を使って子どもたちが味噌づくりをする、霧島のひより保育園。味噌づくりを通して紡がれる物語は、やさしく誰かを想う気持ちに溢れていた。手前味噌ながら、物語の世界へどうぞ。

 「おいしくなーれ! おいしくなーれ!」と言いながら、園児たちがつくっているのは味噌。この味噌の素材を提供しているのが、霧島で農薬や化学肥料、堆肥を使わずに大豆や大麦、野菜などを栽培しているマルマメン工房の増田泰博さんである。
 増田さんが農業や製造業に本格参入したのは2016年。もともとは建設業をしながら全国を転々と暮らしていたが、2011年、縁あって霧島に滞在することになったそう。「食育を行っているNPO法人で、畑の栽培担当として約二年間働きました。その後はひとり派遣業のような感じで、霧島の農家さんのお手伝いをしたり、地域の方たちのなんでも屋さんのようなことをしたりしました」。増田さんの働きぶりと人柄のよさもあってか、一年ほど経つと仕事の依頼の電話が鳴りやまなくなったとか。しかし、増田さんは次第に「本当に人のためになっているのかな」と疑問を抱くように。

霧島で暮らし続けるために
始めたのが、いまの仕事

 「そのあとは、NPO法人に所属していたときに行っていた味噌づくりや豆腐づくりのワークショップを始めました。それから、自分でつくった味噌や豆腐の販売をするようになりました。そんな風に味噌や豆腐をつくっていたら、ふと〝自分で大豆をつくってみよう!〟と思い立ったんです」と増田さん。霧島には味噌づくりをしている人は大勢いるものの、原材料である大豆の生産者は鹿児島全体をみても少ない。「まずは人と違うことをしてみよう、という気持ちがありました。それに霧島は日照時間が長く、山手は寒暖差があり大豆の栽培条件に適した地でもある。私は霧島が気に入っていましたし、ここで暮らし続けるなら農業をして、その素材を使って商品づくりをするのがいいかなと考えました」。増田さんはこうして農業や製造業に参入し、2018年から毎月ひより保育園に大豆を納品している。
 ひとりの園児が「こねてっ! こねてっ!」と言い始めると、子どもたちのかけ声がどんどん大きくなる。先生が米麹を加えると、「わあ! 冷たい!」と大喜びの園児たち。こねるときに勢いあまってテーブルから麹がこぼれ落ちそうになると、先生は「大事にね。お米ひと粒には7人の神様がいるんだよね」と声をかけた。そんな様子を増田さんは、やさしく見守る。「とにかく子どもたちが味噌をつくって、食べてくれることがうれしいです」と目を細めた。

食育そのものが保育に
食が子どもたちを育む

 ひより保育園では、毎月園児による味噌づくりが行われているが、毎回一定量をつくるわけではない。「味噌は月に一回つくりますが、あくまでも子どもの給食に必要な分をつくっています。減ったからその分つくるというだけで、決して特別なイベントではないんです」と保育主任の山本珠緒先生。わざわざ特別な食育のカリキュラムを設けているというより、食そのものが自然と園での暮らしに溶け込んでいると感じた。「子どもたちは、朝から蒸した大豆をつぶして味噌づくりの準備を始めます。米麹のためのお米を洗って水に浸し、種麹を撒いて混ぜて、温度管理をしますが、これも子どもたちがしています。お米は田植えから稲刈りまで、すべて保育として行っています」。なにか活動をする前には、工程や取り組みかたをみんなで話し合うのがひより保育園のやりかた。「活動について、子どもたち全員が共感することは難しい。けれども、みんなでするためにどうしたらいいか話し合います。そんなときにおいしいものを食べることは、自然と共感を生みやすい。食べておいしいと実感することで、みんなが知らず知らずに共感できるからです。私は子どもたちにていねいにかかわることで、保育と食育は一緒にできると思っています」と山本先生は語る。

 ひより保育園を象徴する活動がある。〝ひよりレストラン〟だ。「卒園前に遠足に行くのですが、その資金調達のためにレストランを開店しました。子どもたちがメニューを考案して役割分担を決め、チラシをつくって、当日は周りと協力して調理と接客のすべてを園児たちで行いました」。保護者や地域の方を招いたレストランは大盛況で、園児たちは念願の遠足へ。話を聞いただけで、子どもたちの誇らしげな表情が目に浮かぶ。山本先生に〝食育の目標〟を尋ねると、「〝誰かのためにつくってあげよう〟と思ってもらうこと」と言う。「5~6歳になると、〝お友達のために〟、〝お母さんのために〟と考えられるようになります。自分がレストランでお客さんに料理を提供することで、これまで自分のためにおうちの人が食事をつくってくれていたと理解します。そして、〝今度は自分がお母さんやお父さんのためにご飯をつくってあげよう〟と思ってくれたらいいなと考えています」。こうして活動を通して子どもたちの心身が育まれることが、「誰かが泣いていたら寄り添ってあげる」ことにつながっていく。

園児の味噌づくりにみた
本当の手前味噌

 この日、味噌づくりがひと段落すると、園児たちは4種の味噌を食べ比べた。
  ❶ 一年前の卒園生がつくった麦味噌
  ❷ 当日つくった米味噌
  ❸ 先月つくった麦味噌と❷を混ぜた合わせ味噌
  ❹ 先月つくった麦味噌
 園児は口々に、その日自分たちがつくった味噌を「おいしい」と言った。本来つくったばかりの味噌は熟成していないため、かなり塩気が強い。けれども、園児は自分たちでつくった味噌に、みな自信満々の様子。これが本当の〝手前味噌〟かと、ほっこりする。
 白水純平園長は、「先生たちが味噌づくりを単なる作業にしないように、味見や食べ比べなどの工夫をしています。園ではいかに日常のなかで、子どもたちが自然と食にかかわりをもつかを考えています」と言う。さらに味噌をつくって毎日味噌を摂ることのメリットとして、「食べることを楽しむ環境づくりをしているので、偏食する子は少ないです。それから味噌は発酵食品ですので、子どもたちの身体にもとてもいい影響を与えます。3歳以上になると、風邪を理由にお休みする子はほとんどいません」と話す。子どもたちのすこやかな成長を味噌づくりや、発酵食品である味噌が後押しているとわかる。さらに増田さんをはじめとする生産者などと園の有志メンバーで、神奈川の鴨志田農園さんからコンポストのつくりかたを学び、もう一歩、循環に踏み込もうとしている。「現在、霧島の耕作放棄地を借りて、子どもたちと田んぼをつくってお米を育てたり、畑で野菜を育てたりしていますが、給食から出た生ゴミを使った堆肥化にも取り組み始めました。そして、この堆肥をまた田んぼや畑に使います」と白水園長。「いつか、ひより保育園の大豆や麦をつくって、それを使って味噌づくりができたら」と夢は広がる。

畑でも、工房でも
食べる人のことを想う

 生産者や製造者として、ひより保育園にかかわっている増田さんは、「子どもたちの顔が見えるのがいいですね。畑や工房にいるときも、いつも子どもたちや食べる人のことを考えています」と言う。こうして自分がつくったものを食べる、一人ひとりに寄り添う一方で、「もっと農業や製造業に興味をもつ人や、新規参入する人のすそ野を広げたいんです」と話す。そのために、「マルマメン工房は、ひとり勝ちしないようにしています。これから営農や製造販売したい人が、苦しくならない値段設定にしているんです。〝自分もできる〟と思ってもらい、多くの人が取り組むようになれば、みなが安心できるいいものが食べられるようになりますから。私は、そんな風に少しずつ農業や製造業を変えていけたらと考えています」と増田さん。マルマメン工房の素材を使った、ひより保育園の味噌づくりの物語は、あたたかく、登場人物みんなが〝誰かのため〟を想っている。

マルマメン工房

マルマメン工房

鹿児島県霧島市霧島永水2816
TEL:0995-57-2083
  • 取材文=
    やましたよしみ
  • 写真=
    磯畑弘樹
    東花行
    島崎智成
  • 取材文=
    やましたよしみ
  • 写真=
    磯畑弘樹
    東花行
    島崎智成